2.6. ダム湖における淡水赤潮の形成過程

河川上流に建設された富栄養化していないダム湖において、赤潮が発生する原因は以下のように説明できます。

(1)春になりダム湖の水温が上昇しはじめると、シストからの発芽が起こり、細胞分裂によって栄養細胞が出現し、越冬栄養細胞などと一緒に増殖をはじめます。

(2)湖内の表層水温が上昇し流入河川水温との間に差ができると、表層付近に上流にむかう流れができ、日中に表層浮上したP.bipes は上流に移送されていきます。

(3)梅雨期に入ると河川流入水量が増加し、ダム湖に供給される栄養物質量が増加し、P.bipes の増殖速度が高まり増殖が盛んにおこなわれるようになります。上流に集まったP.bipes は河川から流入した栄養物質を優先的に吸収できる利点があります。また細胞が比較的大きく動物プランクトン等による捕食されにくい特徴が本種の増殖に有利にはたらきます。

(4)P.bipes は他の植物プランクトンに比べて低い増殖速度ではあるが、上記の有利な特徴を利用して春から秋にかけて少しずつ現存量を増加させ、夏から秋に最大現存量に達します。晩秋から冬季になると水温の低下や河川流入水量の減少による栄養物質の枯渇によって、シスト(休眠接合子)を作って湖底に堆積します。

(5)このような季節的消長を経年的に繰り返し、シスト生産量や越冬細胞数が少しずつ増加し、春先の現存量が増加します。そして春から夏の現存量が一定以上に達すると赤潮を形成することになります。

(6)一度赤潮を形成する細胞数に達すると越冬する細胞やシストの量も一定以上となり、毎年赤潮を形成することになります。年による赤潮の発生規模の違いはその年に流入する河川から供給される栄養物質の量によって左右されます。

(7)このような増殖を繰り返して赤潮を形成するため、栄養物質の供給が少ない河川上流に建設されたダム湖においても赤潮が発生することになります。

 

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ダム湖におけるP.bipes 淡水赤潮の発生過程