4.4. 太陽光発電による農地の遮光率と栽培作物

太陽電池を農地設置した場合の遮光率(太陽電池の総面積/太陽電池設置農地の面積)の例をみると平均46.5%で、強い日射を必要とする作物では相対的に遮光率が小さく、強い日射を必要としない作物では遮光率は大きくなっています。
ソーラーシェアリングをおこなっている農地の多くでは日射がある程度遮られても育つ作物が植えられています。日射を必要とする水稲の比率が比較的高いのは、我が国の農地のなかで水田面積が圧倒的に広いためと考えられます。
強い日射を要求しない作物によるソーラーシェアリングでは今後、農地での太陽光発電には限界があります。

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ソーラーシェアリングをおこなう農地での栽培作物と遮光率

 

4.3. 農地での太陽電池設置の現状

農地での太陽光発電面積は2011年度以降増大し、2017年には8,000ha以上になりました。想定される発電出力は460万kW(太陽電池出力120W/m^2,遮光率47%で計算)以上です。1件当たりの発電面積は約1,700m^2(0.17ha)で、遮光率を47%とすると96kWの出力となります。
農地で作物を栽培しつつ太陽光発電をおこなう場合、作物生産量が20%以上低下しないことが条件となっています(農水省)。このため、太陽電池設置による遮光率(太陽電池の総面積/太陽電池設置農地の面積)をどうするかが栽培する作物との関係で課題となります。遮光率を小さくすると作物への影響は小さくなりますが、太陽光発電量は小さくなり、逆に遮光率を大きくすると作物への影響が大きくなります。また日射の減少が偏らなくすることも、太陽光発電と農業を同時におこなう上で重要です。

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農地への太陽電池設置状況の経年変化

 

4.2. 再生可能エネルギーの潜在量

再生可能エネルギーとして、太陽光、風力、水力、地熱、バイオマス発電、海洋エネルギーを利用した発電の導入予想量が検討されています。
水力発電のうち大規模水力発電所は河川生態系への影響、健全な水循環の阻害、あるいは土砂の移動を妨げるため、今後開発されることは期待できません。中小水力発電は、開発しても大きな電力を生産することは期待できません。地熱発電は有害物質(硫黄系ガス等)の排出や、温泉等との競合、あるいは地盤沈下等の問題はあり大きな電力は望めません。バイオマス発電は、発電に使用できるバイオマス量が植物等の成長による制限を受けるため、限定的な量しか発電できません。海洋エネルギー(潮流・海流発電)は莫大なポテンシャルがありますが、イニシャルコストやメンテナンスコストが膨大です。
将来火力発電所に替わることが可能な再生可能エネルギー太陽光発電風力発電に限定されます。
風力発電は莫大な潜在量を持つとされますが、騒音問題やバードストライキイング(鳥の衝突)等の環境問題があり、一定規模以上になると環境アセスメントが必要となります。このため沿岸等への設置(海洋着床方式)が進められていますが、海洋への設置は漁業との協調(合意や相互メリットの明確化)が必要となります。また津波対策等で設置費用が大きくなります。海洋浮体方式はイニシャルコストやメンテナンスコストが莫大です。
太陽光発電は風力に比べて潜在量は小さいですが、将来必要なエネルギー量を十分賄える量があります。導入予想では耕作地を計算に入れていませんが、これを加えると莫大な量となります。太陽光発電も光害(朝、夕の光の反射)や雑草の繁茂等の問題がありますが、対策コストは小さくすみます。発電量を多くするには整地された広大な土地が必要です。その点で農地での太陽光発電が適しています。また、膨大な潜在量があります。近年になり農地法が改正され、ソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)が可能となりました。

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再生可能エネルギーの潜在量

 

4.1. 将来の電源

地球温暖化防止対策の一環として、2050年代には先進国のCO2排出量を80%削減することが求められています。電力分野では原子力発電所を増設し、それらの稼働率を上げることでCO2排出量の削減に貢献する方針でした。しかし2011年の東日本大震災とこれに伴う福島原発事故により、この方向性は失われました。
この結果、再生可能エネルギーを主体とした電源構成に替わろうとしています。電力分野から排出されるCO2を将来20%に減らすには、火力発電による発電量を20%以下にする必要があります。原子力発電の比率を20%で維持するとすると、それ以外のCO2を排出しない発電方式を60%以上にする必要があります。
電力分野におけるCO2排出量の削減方針としては、(1)電源構成において、再生可能エネルギーの比率を50%(大規模水力を入れると60%)にあげる方向性と、(2)再生可能エネルギーを30%程度とし、火力発電(40%)の半分をCCS*CO2 Capture and Storage)方式とし、火力発電所から分離・回収したCO2を地中に貯蔵する方式が考えられています。
再生可能エネルギーの増加は利益(売電収入)を生みますが、CCSによるCO2の地中貯留はコスト(分離・回収と貯蔵費用)がかかります。一方で、再生可能エネルギーの不安定さを補うには、火力発電等の安定した予備電源や大容量の蓄電技術が必要となります。

*CCS:火力発電所や製鉄所では化石燃料を燃やし、その過程で二酸化炭素を排出します。これを分離・回収して地中に封じ込める(貯留する)技術。化石燃料を燃焼後に分離・回収する方法や燃料を事前に改質(H2やCOのみを分離)し、燃焼させる技術があります。

 

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将来の電源

 

4. 地球環境農場

地球環境農場では、農地において農作物と再生可能エネルギーを併産します。これにより農地の生産性が向上し、豊かで安定した地域社会を創出するとともに、国内のCO2排出量の削減に貢献できます。エネルギー供給システムや農業政策が大きく変わることが期待できます。

日本の国土面積は約3,800万haで、そのうち耕作地(屋外)は442万ha(12%)です。耕作地の20%で太陽光発電太陽電池被覆率20%)をおこなった場合、年間発電量は約2,633億kWh(計算式1)となり、年間に必要な電力(約1兆kWh)の26%を供給できます。CO2排出削減量は1.2億t-CO2(計算式2)となり、年間CO2排出量(約12億t-CO2)の約10%を削減できます。売電収入は2.6兆円(10円/kWhで計算)となります。
農業での年間生産量は約5兆円です。太陽光発電によって4%(0.2×0.2=0.04)の生産量が減少した場合の収入の減少は平均2,000億円となります。差し引きすると2兆2,500億円の増収となります(2兆6,000億円-2,000億円=2兆4,000億円)。地球環境農業は、農業分野での生産高を約1.5倍に高めます。

豊かな食生活に必要な作物を生産しつつ、再生可能エネルギーを併産する具体的な地球環境農場の技術が求められています。

計算式1:3.6(kWh/m^2・日,平均日射量)×442×10^8(m^2,農地面積)×0.2×0.2(被覆率)/1.2(m^2,太陽電池面積)×0.17(kW,太陽電池出力)×0.8(総合設計係数)×365(日,年間発電日数)=2,633億kWh


計算式2:2,633×10^8(kWh)×(0.000512-0.0000455)/10^4=12,283万t-CO2
0.000512,発電所のCO2排出係数 t-CO2/kWh; 0.0000455,シリコン太陽電池のCO2排出係数 t-CO2/kWh)

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地球環境農場

 

3.10. 海洋深層水利用の展開

火力発電所の冷却用水として海洋深層水を大量に取水することで、発電所運用によって起こる環境問題を軽減できます。また取水した海洋深層水の一部を他の産業に供給することで、地域産業の創出や育成に大きく貢献できます。特に冷却用水として大量に取水するために安価な海洋深層水が得られます。また発電所内での熱交換によって適度に昇温することで、海洋深層水の利用価値も高まります。海洋深層水を取水した火力発電所の周辺に深層水利用型産業を配置し、適正な温度に調整した海洋深層水を循環することで工場、事務所等の省エネも可能となります。

火力発電所低温な海洋深層水を冷却用水として利用することで、発電効率が向上し火力発電所から排出されるCO2量を減少できます。また夏季に形成される高温な温排水が消失します。栄養塩を豊富に含むため、適度に昇温した海洋深層水を放流することで、沿岸域の藻場形成が可能になります。

浄水事業(水道事業):海洋深層水には有機物や懸濁粒子が少ないため、逆浸透膜(RO膜)を用いた淡水化が効率的におこなえます。海洋深層水を利用した場合のイニシャルコストは表層水の場合の66%程度となります。一般的な河川水での浄水に比べると1.1倍となりますが、清浄な海洋深層水を用いるため、高度に清浄な水道水の供給が可能となります。ポンプ動力量が減少でき、年間の電力使用削減量は340万kWh/年となり、CO2排出削減量は1,500t・CO2/年程度となります。この方式は河川水や地下水が得られない、離島や島しょ国において特に有効な技術となります。

食品・化粧品産業:海洋深層水を多様な膜を用いて脱塩化することで、ミネラル成分を付加したボトルウオータの製造や飲料水原料(ビール,日本酒)として利用されています。浄水事業の副産物として生産される濃縮海水を用いることで、安価な天然塩が生産できます。清浄な海洋深層水を脱塩した淡水を化粧品原料として用いることで、付加価値の高い化粧品類の供給が可能となります。このような産業が深層水利用火力発電所の近傍に立地できます。

医療健康産業:海洋深層水を満たした温水、冷水プールでの海洋療法、リハビリテーション等をおこなうことで、医療・健康・美容産業に貢献できます。すでに海洋深層水取水施設近傍にはタラソティラピー(海洋療法)施設が併設されています。

冷熱・温熱利用施設園芸:低温の海洋深層水(10℃)や発電所で加温した海洋深層水(20~25℃)を園芸施設内に配管することで、温室内の温度制御が容易となり、年間を通した作物生産が可能となります。ヒートポンプの冷熱源(夏季:無加温海洋深層水)や温熱源(冬季:昇温海洋深層水)となり、周年的に省エネが可能となります。トマトを例にすると、温室栽培での培養液冷却によって糖度や酸度が高まり、品質の向上(尻腐れ果の減少)にも貢献できます。

富栄養性・清浄性利用水産増養殖:栄養塩を豊富に含み、適度に昇温した海洋深層水は海藻養殖に適しています。無加温や昇温した清浄な海洋深層水を養殖用の海水として用いることで、病気になりにくい多様な魚類、エビ類等の養殖や種苗生産が可能になります。清浄な海洋深層水を用いた魚介類の養殖は、付加価値の高い養殖魚の供給を可能とします。

建屋空調の省エネ:無加温の海洋深層水(10℃)をヒートポンプの冷熱源に利用することで、冷房の省エネに貢献します。昇温した海洋深層水(25℃)は温熱を供給し、冬季の暖房の省エネに利用できます。発電所近傍に工場群や宿泊施設を配置することで、海洋深層水を用いた省エネが効率的におこなえます。

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海洋深層水を利用した火力発電所を核とした地域産業創出









 

3.9. 海洋深層水の放流による藻場造成

昇温した海洋深層水を大量に海洋に放流する場合の利用法としては、藻場造成が有効です。海洋深層水を海域に放流すると短時間で拡散してしまいますが、放流域の沖合に潜堤を設置することで海洋深層水の貯留が可能です。

火力発電所放水口沖合に潜堤を設置することで放流深層水を貯留し、そこに人工的に藻場をつくります。この藻場を維持することでタネや胞子の供給場所となり、周辺に藻場が拡大します。これにより、放水口側の生物多様性を豊かにすることが可能となります。

また海洋深層水を漁港等の人工構築物内に導入することで、静穏海域に藻場をつくり、アワビ等を養殖・蓄養することで地域の漁業振興に貢献することが可能となります。

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海洋深層水の放流による藻場造成