3.6. 海洋深層水放流による環境変化

海洋深層水を昇温した後に放流すると、放流域の水温、栄養塩濃度、pHが変化します。また、栄養塩濃度の変化は放水域の植物プランクトン群集や海藻・草類群集に影響を及ぼす可能性があります。海洋深層水を100万m^3/日で取水し、15℃昇温して放流した場合の環境変化を概観します。

水温:海洋深層水の水温を10℃とし(太平洋側)、15℃昇温して放流すると周年25℃の海水が放流されることになります。夏季の場合、放水口側に温度変化はほとんど起こりません(表層水温28℃程度)。冬場は温排水が放流され広い範囲に拡散します。表層水を冷却水として利用する一般的な火力発電所では常に環境水温より7℃程度高い海水(夏季で35~37℃)が放流され、夏季の放水域は海洋生物にとって過酷な水温になります。海洋深層水を用いることで、夏季の高水温域は形成されません。冬季の海洋深層水放流水は20~25℃と高くなりますが、自然の環境水温の変動範囲(8~30℃)のなかに収まります。海洋深層水を冷却水として利用した場合、放流域の生物群集への影響は小さくなります。

栄養塩:海洋深層水を取水して放流すると放流域のリン、窒素、珪酸の濃度が上昇します。栄養塩は比較的広く拡散します。夏季の場合、10倍希釈水は約1km下流側まで到達し、冬季では4~5km下流側まで到達します。このような栄養塩の拡散は放流域の植物プランクトン群集や海藻の増殖に影響をおよぼします。

pH:海洋深層水の放流によってpHが下がります。これは海洋深層水中に高濃度の炭酸が含まれるためです。通常海洋の環境基準ではpH7.8~8.3の範囲が適正とされます。海洋深層水を放流した場合、pHが7.8以下となる範囲は約500m程度となり、影響は限定的と考えられます。pHの低下は石灰化をおこなう貝類、ウニ類、サンゴ、石灰藻等に影響をおよぼす可能性があります。サンゴの場合、高栄養塩濃度(高いリン酸濃度)や栄養塩の構成比(硝酸とリン酸の比率)がサンゴの石灰化を阻害する可能性があるため、海洋深層水を放流する場合、配慮が必要と考えられます。海洋深層水を石灰化生物の種苗生産に用いる場合は、予め空気によるバブリング(エアレーション)をおこなうことでpHを高くできます。

 

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放水域の環境変化