3.7. 海洋深層水放流域での植物プランクトン群集の挙動

 海洋深層水を大量に放流した場合、深層水に含まれる高濃度の栄養塩によって植物プランクトンが増殖する可能性があります。一方で、深層水は水温が低いため、希釈率の低い場では増殖速度は低水温の影響を受けて、表層水よりも低くなる可能性もあります。海洋深層水をそのまま放流する場合と、昇温して放流する場合の植物プランクトンの比増殖速度を比較すると、昇温しない場合では希釈率が低い場所では、増殖速度は表層水よりも低くなります。5℃以上昇温すると、増殖速度は常に表層水の値よりも高くなります。

海洋深層水を放流した場合、植物プランクトン群集の構成が変化する可能性があります。初期条件(表層水だけの条件)や新たに表層水を添加した条件では鞭毛藻類の比率が高くなりますが、深層水を添加すると珪藻類主体の群集構成に変化します。これは深層水に多く含まれる珪酸の影響と考えられます。

海洋深層水を15℃昇温して海域に放流した場合、植物プランクトンの高密度分布域が出現する可能性があります。海洋深層水は場の流れに乗って下流域に拡散し、その間に植物プランクトンが増殖します。概ね18㎞下流域で植物プランクトンの現存量が最大4%程度増加すると推定されます。

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海洋深層水の放流に伴う植物プランクトン群集の挙動