4.10.その他の作物の栽培と太陽光発電

 トマトはコメに比べて単価が高く、また収量(年間生産量)も61,400㎏/haと多い作物です(コメ:5,300㎏/ha)。トマト栽培には強い日射が必要で、太陽光発電を併用すると日射量の減少に伴って生産量が低下します。太陽電池設置によるトマト生産額の減少と電力生産による電力生産額の関係を計算しました。トマトの単価を320円/kgとした場合(概ね平均価格)、太陽電池を設置しない場合のトマト栽培での収益は1,965万円/haとなります。太陽電池を設置するとトマト生産額は減少し、発電による収益が増加します。太陽電池による遮光率を20%にすると、総収益は1,989万円となります。トマトのみの栽培に対して24万円の増収にしかなりません。これはトマトの収量が大きくまた単価も高いため、太陽電池設置による影による影響が太陽電池による電力生産よりも大きくなるためです。
トマト単価を280円~380円/kgに変化させて計算した結果、単価が320円/kg以下であれば太陽電池設置により僅かながら総収益は増加します。340円/kgを超えると太陽電池をトマト畑に設置すると総収益は減少することになりました。
この結果は年間収量が多く、単価の高い作物の場合、耕作地に太陽電池を設置すると総収益が減少する可能性があることを示しています。

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トマト栽培での農電併産による収益性



 

4.9. 水田での太陽光発電(2)

水田に光拡散透過型太陽電池を設置し、コメを生産しつつ太陽光発電をおこなう場合の経済性を検討します。
国では農地で太陽光発電をおこなう場合、作物の生産量が20%以上低下しないことを条件に許可しています(農地法)。
コメの栽培には強い日射が必要です。コメ生産量が日射量に正比例すると仮定すると、水田での日射の遮光率は20%以下にする必要があります。光拡散透過型太陽電池の光透過率を30%とすると、水田に配置できる太陽電池の面積比率は30%以下になります。
 水田の遮光率:(100%-30%)×30%=21%
100m^2(1a)水田に太陽電池を設置する場合、約30台の太陽電池が設置できます。
1ha(10,000m^2)水田に167Wの光拡散透過型太陽電池を3,000台設置(水田遮光率25.2%)した場合の年間発電量は約524,000kWhが期待できます。一方で、コメの生産量は約20%低下することになります。
この配置方式を前提に、太陽電池の台数を変化させた場合(水田遮光率を変化)の総収益の変化を検討します。コメの単価を260円/kg玄米、電力単価を10円/kWhとしました。
コメの生産額は遮光率が高くなるにしたがって減少しますが、太陽電池による電力生産額は大きくなります。また、コメの生産額の減収に比べて、電力生産額が相対的に大きくなります。この結果、水田において太陽光発電とコメ生産を併産した場合、総収益は遮光率が高くなるにしたがって上昇することになります。
国が定めたコメ生産減少率(20%)を前提とした場合の(水田遮光率20%)総収益は528万円となります。コメ生産のみの場合の収益は139万円ですので、収益は3.8倍になります(528万円/139万円=3.8)。光拡散透過型太陽電池の利点は明確な影をつくらないことにあります。もしこのタイプの太陽電池を使うことで、コメ生産への影響がなかったとすれば、総収益は556万円になります。
生産単価の安いコメの場合、太陽光発電と農業を併産することでコメ農家の収益は大きく増収できる可能性があります。

水田での農電併産は低収益の稲作事業者の収益を大きくの増やすことが可能です。一方でコメ生産量の減少は食糧安全保障上大きな問題となり、太陽電池による影の影響についての知見の集積が必要です。またコメ生産への影響の少ない太陽光発電技術の確立も課題となります。

 

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水田への太陽電池の設置イメージと収益試算

 

4.9. 水田での太陽光発電

水田面積は約241万haであり、国内農地の50%を占めています。水田でのソーラーシェアリングが成立できれば、莫大なエネルギーの生産が可能となります。コメの収穫は通常水田ごとにコンバイン機によって一斉におこなわれるため、水田内のコメの成熟に偏りのないことが望まれます。水田に太陽電池を設置する場合は、場所によって日射量に偏りがないように工夫する必要があります。
温室の場合は、外壁フィルムに光拡散フィルムを用いることで、日射の偏りを小さくすることができます。水田ではこのようなフィルムを設置することができません。そこで、スリット方式の光透過型太陽電池の光透過部の下面に光拡散ガラス(あるいは光拡散フィルム)を用いることで、透過光を拡散させることが可能となります。

 

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作物への影響の少ない水田での太陽光発電

 

4.8. 作物への影響の少ない温室併設太陽光発電

温室の屋根や側面等に太陽電池を設置する場合に、太陽電池による作物栽培への影響を軽減する方法として以下の方法があります。
(1)温室の外壁フィルムを光拡散フィルムにする。これによって、太陽電池の設置によってできる影の影響が軽減できます(4.6. 太陽電池の作物への影響の軽減)。光拡散フィルムにより20%程度の光が失われますが(光の温室外への拡散により)、屋根面の太陽電池設置場所を工夫すれば、失われる光の量は軽減できます。
(2)使用する太陽電池をスリットの入った、光透過型太陽電池にする(4.7. 光透過型太陽電池の効果)。現在このような太陽電池は市販されていませんが、メーカーでは製造可能です。スリットをいれることで発電出力は低下しますが、作物への影響は軽減できます。
(3)温室床面のシートを光反射方式(白色シート)にする。これにより床面にあたった光の38%程度が反射し、作物に光を供給できます。
(4)温室形状に合致した太陽電池の配置。これには数値シミュレーションが必要になります。南北方向に設置した温室の場合、通常北端部に温調装置などの機材を置きますが、このような場所の上に太陽電池を集中的に配置することが考えられます。また太陽電池の長辺側をどの方向に(たとえば南北方向や東西方向)に設置したほうが影の影響が少ないかが推定できます。

 

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作物栽培への影響の少ない温室併設太陽光発電

 

4.7. 光透過型太陽電池の効果

 農地のうえに設置した太陽電池による作物への影響を低減する方法として、光透過型太陽電池を用いる方法があります。光透過方式としては太陽電池全面で光を透過する方式と太陽電池のセル間に光を透過する隙間(スリット)を入れる方式があります。光透過式の太陽電池としては有機薄膜太陽電池やペレブスカイト太陽電池がありますが、現状の技術では発電出力が小さく、まだ実用的ではありません。結晶シリコン太陽電池は出力が大きいですが、全面透過型の太陽電池は作れません*しかし、太陽電池のセル間にスリットを入れることは可能です。
そこで、全面透過方式とスリットを入れる方式の太陽電池を設置した場合の床面日射量のばらつき(偏差)を数値シミュレーションによって検討しました。光透過率は全面透過方式もスリット方式も36.4%に設定してあります。
時刻別に変動係数(偏差/平均日射量 ,%)をみると全面透過方式の値が小さくなり、スリット方式に比べて全面透過方式の日射のばらつきが小さくなります。また、スリットの数は日射のばらつきに大きく影響しないことがわかります。しかし、10時から15時の結果を通してみると、変動係数はほぼ同じ値となり全面透過方式とスリット方式で差がなくなります。
将来、高出力の全面光透過型太陽電池が開発される可能性はありますが、現状の技術では高出力のシリコン結晶太陽電池にスリットを入れる方式でも作物への影響を低減しつつ、大きな電力を得ることが可能です。

*結晶シリコン太陽電池でも細かいスリットを太陽電池全面に入れ、全面透過にすることは可能ですが、光透過率は10%程度です。

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光透過型太陽電池の効果

 

4.6. 太陽電池の作物への影響の軽減

農地に太陽電池を設置した場合、日射量の減少と日射量のばらつきが問題となります。温室に太陽電池を設置する場合の例を示します。温室の外壁フィルムに光拡散フィルムを用いた場合と、透明フィルムを用いた場合の太陽電池による影の影響を数値シミュレーションによって検討しました。
光拡散フィルムに光があたると光は拡散します(すりガラスと同じ)。このようなフィルムを温室の外壁材として用いることで、太陽電池によってできる日射の偏りを軽減できる可能性があります。
光拡散フィルムを外壁材として用いた場合の床面の日射のばらつき(偏差)は1.1ですが、透明フィルムの場合は2.5~2.8です。光拡散フィルムを用いることで、日射のばらつきを60%程度小さくすることができます。

一方で温室内の日射量を比較すると光拡散フィルムを用いた場合の日射量は13.9MJ/m^2ですが、透明フィルムでは17.1MJ/m^2となり、透明フィルムの81.1~81.5%となりました。これは光拡散フィルムの場合、光の拡散によって温室に入るべき日射の一部が温室外に拡散したことを示しています。
温室栽培の場合は温室外壁材を光拡散フィルムにすることで太陽電池による日射のばらつきを軽減できます。一方で日射量は減少しますが、これは太陽電池の設置のしかたを工夫することで軽減できます。屋外での栽培の場合は、栽培エリアに光拡散フィルムを張れません。この場合は太陽電池を工夫する必要があります。

 

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光拡散フィルムによる太陽電池の影の影響の低減

 

4.5. 太陽電池の設置による作物への影響

温室に光透過型の有機薄膜太陽電池を設置し、太陽電池による遮光に伴う作物(トマト:桃太郎ヨーク)の生産量への影響を調べました。秋から冬にかけては温室内に86台(遮光率,18.1%)、春から夏にかけては106台(遮光率,23.6%)の太陽電池を設置しました。温室内の水平日射量をみると(太陽電池設置温室/対照温室)の比率は、秋冬条件で84.7~87.1%、春夏条件で80.9%となりました。
秋から冬に栽培したトマトの生産量は太陽電池設置温室で少なくなり、対照温室の88%となりました。春から夏に栽培したトマトの場合では94%となりました。しかし、可販果実重量(販売可能な果実の重量)は太陽電池設置温室で栽培したトマトのほうが多くなり、太陽電池設置による遮光による効果がみられました。対照試験区では強日射の影響を受けて裂果や尻腐れ果が多くなりました。
秋から冬の日射が弱くなる条件では太陽電池の設置による日射量の減少が果実の生産量に影響します。春から夏の日射の強い条件では、太陽電池の設置による遮光効果により可販果実量が増加することがわかりました。

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有機薄膜太陽電池を設置した温室

 

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太陽電池設置温室と対照温室での水平日射量の比較